筋トレこそが最強の薬である。

京大バーベル部卒の薬剤師が筋トレや食事法中心に、健康に役立つ情報を紹介します。

健康的な食事のための炭水化物の割合は50%!?

要約

・最も死亡率が低い炭水化物の割合は50%である。

・極端な低炭水化物の方が極端な高炭水化物よりも死亡率が高い。

・炭水化物を肉に置き換える場合はより一層死亡率が高い

糖質制限食は某医師や某会員制ジムによってかなり有名になっている。確かに炭水化物カットはエネルギーを大幅に減らすことが可能で、短期間であれば特に問題がないことが多い(持病を持っている人は絶対に自己判断でやってはダメだ!)。私も大幅な減量に成功したのは炭水化物カットのおかげであるところも大きい。

 しかしながら、極端な炭水化物カットを長期間行うべきかどうかは悩んでいた。例えば、炭水化物が体に悪いのが事実であれば炭水化物を沢山含む果物の摂取量が疾病のリスクになっていなければならないのだが、実際は生の果物を食べることは疾病のリスクというどころか、健康によいことが数多く紹介されている(下はその一例)

www.nejm.jp

 というわけで、炭水化物が悪玉ではない可能性もある。

一方で糖質制限食の賛成者には

「炭水化物が高いと死亡率が低い」

という論文

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)32252-3/fulltext

を紹介して「高炭水化物で死亡率が高いのだから炭水化物は悪玉だ」と主張する人もいる。しかし、この論文の炭水化物が多い群の人々は収入が低かったり、発展途上国であったりすることが多く、交絡因子の調節が不十分である恐れがあった。

知り合いがいうところの

「それって年収で補正したら差がなくなるんじゃね?」

である。確かに、年収の低さと寿命の短さは大いに関連性があることは、残念ながら医学界では常識である。例えば貧富の差が激しい超大国アメリでのデータ

https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2513561

では、年収が最も低い人々は最も高い人々と比較して最大14.6年間の寿命が短いというデータが発表されている。そのため、金銭的な状態を考慮しないことはデータの妥当性に問題がある恐れが高いということになる。よって炭水化物の摂取割合と健康との関係は未だによくわからないのである。

 The lancet public healthで新たに発表された論文では、補正因子の中に年収が入っており、先のデータよりも信頼性が高いと考えられる。いくつか興味深いデータがあったが、一言でいうと次の図が物語っている。

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The lancet public health「Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis」Figure 1より引用。

簡単に説明すると、縦軸が全死亡率、横軸がカロリーに占める炭水化物の割合である。この図のとおり、炭水化物の割合はだいたい50~55%程度が最も死亡率が低く、それよりは多くても少なくても死亡率が高いという結果になっている。特に注目すべきは、極端に炭水化物をカット(全カロリーの30%未満)の方が高炭水化物よりも死亡率が高いということである。

この図のデータは年齢、性別、地域の中での心血管病リスク、総カロリー摂取症、糖尿病、喫煙、運動量、年収、教育レベルと、数多くの因子で調節がなされており、かなり信頼できるデータだと考えられる。

 さらに言うと、炭水化物の代わりにカロリーを動物性たんぱく質で摂った場合さらに死亡率が高いく、代わりに植物性たんぱくで摂れば幾分リスクが低いという結果になっている。つまり、

肉を食って炭水化物をめちゃくちゃ減らした食事をするとが死亡リスクが最も高い

ということになる。肉も魚も食べるダイエットは長期的にはしないほうがよさそうだ。

個人的な考察ではあるが、植物性のものを多くとると害が緩和されることから、腸内環境が関わっているのではないかと思う(炭水化物を減らすと食物繊維が減って悪玉菌が増えるし、動物性たんぱくも腸内環境にはよくない。)。

 というわけで、健康のことを考えると、極端に炭水化物を削った食事はあまりよくない可能性が高いということになり、糖質の極端な制限は体重を落とすために短期的に取り入れるに留めたほうがよいと思われる。このデータはアンチ糖質制限食の人にとってはかなり追い風のデータだが、炭水化物のとり過ぎもよくないこともこのデータは示している。脂肪もとり過ぎも不足もダメだったように、炭水化物も「中庸」が重要であることを理解したほうがよさそうだ。

参考文献

The lancet public health 2018「Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis」

The New England Journal of Medicine 2016「Fresh Fruit Consumption and Major Cardiovascular Disease in China」

The Lancet 2017「Associations of fats and carbohydrate intake with cardiovascular disease and mortality in 18 countries from five continents (PURE): a prospective cohort stud」

JAMA 2016「The Association Between Income and Life Expectancy in the United States, 2001-2014」