筋トレこそが最強の薬である。

京大バーベル部卒の薬剤師が筋トレや食事法中心に、健康に役立つ情報を紹介します。

長期間の有酸素運動で褐色脂肪細胞によるダイエット効果が落ちる!?

 要約
・長期間の運動で褐色脂肪細胞の活性が落ちる可能性がある。
会社のデザイン担当より
「褐色脂肪を活性化させるサプリのデザインをやってるのですけど、運動と褐色脂肪細胞ってなんか関係してますか?」
という、かなり鋭い質問が来た。褐色脂肪細胞とは脂肪に分類されるもののミトコンドリアというエネルギー産生器官が豊富で、体熱産生や高血糖の是正に役立つことがしられており、肥満の研究では欠かせない組織である。この質問を答えることはサプリの宣伝にも役立つだろうと思い、論文を探していたら面白い論文を見つけることができた。
 有酸素運動がダイエットに役立つのは有名である。有酸素運動によって活性化される交感神経や、有酸素運動によって分泌促進される因子(ナトリウム利尿ペプチド、IL-6、FGF21など) は短期的には褐色脂肪細胞を活性化させ、エネルギー消費を促進させる。確かに減量によさそうだ。
 しかし、これが長期間になると話が変わる。運動が長期間になると褐色脂肪細胞でのブドウ糖の取りこみや、ミトコンドリアの活性が下がってしまうようなのだ。すなわち、褐色脂肪でのエネルギー消費の低下を意味する。さらに、自転車競技者や水泳選手といった有酸素運動能力が高いスポーツ選手も褐色脂肪細胞の活性が落ちているという報告までなされている。
 確かに、運動量が多い場合は発熱しているので褐色脂肪細胞で体温を保つ必要はなく、むしろそんなことしていたら飢餓のために蓄えるべき脂肪をムダ使いしてしまうわけであるので、合理的である(現代では困ったものだが)。
 この現象はなかなか一筋縄ではいかず、有酸素運動は最初から褐色脂肪細胞の活性が低い人にはあまり影響が見られなかったという報告もある。とはいえ、順調に進んでいたダイエットが急に進まなくなる要因の一つにはなりうるだろう。

 

 ものすごく運動をしていたスポーツ選手が引退してしまうとものすごく太ってしまうケースはしばしばみられるが、褐色脂肪細胞の不活性化も影響している可能性もある。私も高校生の時に有酸素運動である程度は痩せたものの、あっさりリバウンドしてしまったのもそのせいかもしれない(これはほとんどが受験のストレスでの食べ過ぎのせい)。
 というわけで、有酸素運動に頼り過ぎると褐色脂肪細胞によるエネルギー消費が低下し、ダイエットが努力の割に進まない可能性がある。何か対策はないのだろうか?寒冷刺激(つまり寒い思いをすること)は褐色脂肪細胞を活性化させるものの、ストレスがかかるのでお勧めはしない。一応、褐色脂肪細胞をサプリメントなどで活性化させる方法もあるので、予算がある人は試してみてもよいだろう(そのうち紹介する予定。)

一番は基礎消費エネルギーを高める効果のある筋トレを取り入れることである。ダイエットでは同じことばかりすると行き詰ってしまうのだが、何か教訓的なものを感じるのであった。さて、デザイナーにがんばってもらうとしよう。

参考文献

Nutrition&Metabolism 2015[「Role of Exercise in the Activation of Brown Adipose Tissue」

Biochimica et Biophysica Acta 2018「Effects of exercise on brown and beige adipocytes.」