ハイスピードトレーニングで追い込まずとも高齢者の筋力向上に役立つようだ。
要約
・一般的な追い込む筋トレでも、追い込まないハイスピードトレーニングでも高齢者の「使える筋力」は向上する。
・追い込まないハイスピードトレーニングには楽なうえに、トレーニング中の血圧への負荷が低いという特徴がある。
・ハイスピードトレーニングは関節には負担があるので、よく準備体操を行い、関節に不安がある部位では行わないようにしよう。
昔とは異なり、高齢者に対する有効性が分かったことから、高齢の人も筋トレに取り組もうという人が増えています。高齢者が筋トレを行う際に満たすべき内容として、
・日常生活の動作の改善や生活習慣病の改善に役立つ
・楽に行える
・血管や関節への負荷が小さく、安全性が高い
という3つの点に注意する必要があります。しかしながら、一般的な筋トレではこのように指導することが多いでしょう
・8~12回できる高重量を用いる
・ギリギリまで追い込む
このようなトレーニングは効果的ではありますが、高重量を使うため関節への負担が大きく、強く力むことから運動最中の血圧が上がるという難点もあります。また、ギリギリまで追い込むのはキツイため、人にとっては継続できないことも多いでしょう。
このような通常の筋トレメニューではなくとも、軽くてしかも限界まで追い込まなくとも身体機能を高めることは可能です。それは、軽めの重量を用いる代わりにハイスピードで重りを動かせばよいのです。
2021年にItamar P Vieiraらにより発表された研究では(1)、平均年齢67.8歳の被験者をランダムで
・10~12回がギリギリできる重量で追い込むトレーニング。動作のスピードは2秒で挙げ、2秒で降ろす(伝統的トレーニング)
・最大重量の40~60%で6回~8回の挙上を行う。挙上時はできる限りハイスピードで行い、2秒で降ろす(ハイスピードトレーニング)
という2群に分けて、週2回、8週間のトレーニングを行いました。種目は45°レッグプレス、デッドリフト、チェストプレス、ラットプルダウンで構成され、セット間の休憩は90秒でした。
その結果は以下になります。
・レッグプレス、チェストプレスの筋力は伝統的トレーニング群の法が効果が高かった。ハイスピードトレーニング群ではレッグプレスの筋力向上はみられたが、チェストプレスの筋力は向上しなかった。
・椅子から立ち上がる筋力、立ち上がって歩く筋力、メディシンボール投げの筋力は両群ともに同程度向上した
・一部気分の改善が両群ともに見られた
この実験ではレッグプレスやチェストプレスの筋力向上については伝統的トレーニングに軍配が上がりましたが、立ち上がる、歩く、物を投げるといったいわゆる「使える筋力」についてはどちらも同程度という結果になりました。
実際にやってみると実感すると思いますが、今実験での「ハイスピードトレーニング」とは非常に楽なトレーニングです。デッドリフトを10~12回ギリギリまでというのは日常的に筋トレをやっている私でもキツく、高齢者にさせるというのはかなり無理があるように思いますが、最大重量の40~60%で6~8回というのは割と簡単にできてしまいます。
このことを科学的に示した文献を探したところ、この手のハイスピードトレーニングは楽で、さらによいこと動作中の血圧増加も少ないという利点があると示されています(2)。よって、ハイスピードトレーニングは高血圧の人にもリスクが少ないトレーニングとも言えます。
ハイスピードトレーニングは関節に負荷が高いという難点があるので、準備運動はしっかりと行い、関節に不安がある場合はスロートレーニングのような負担の少ないトレーニングを採用するのがよいでしょう。また、上半身は伝統的トレーニングでしっかりと行い、下半身はハイスピードトレーニングで行うというのも効率的でよい考えだと思われます。トレーニングにも流行りの「生産性」を意識して行うのもよいでしょう。
参考文献
(1)2021 Itamar P Vieiraら「Effects of High-Speed Versus Traditional Resistance Training in Older Adults」
(2)1998 中村 夏美らデサントスポーツ科学vol.19 「血圧の連続測定から見た中高齢者のレジスタンストレーニングの安全性」