筋トレこそが最強の薬である。

京大バーベル部卒の薬剤師が筋トレや食事法中心に、健康に役立つ情報を紹介します。

骨密度が低い人も、筋トレは安全かつ効果的である。

要約 閉経後女性に対する研究で、以下のことが示された。

・高強度の筋トレは低強度の運動よりも骨密度の改善により効果的であった。

・高強度の筋トレのせいで骨折のリスクが増えるということはなかった。

 運動が健康に役立つことは科学的事実であり、その分野は数えきれないほどです。今回は骨密度に関して興味深い報告を見つけることができたので、紹介しようと思います。

 筋トレは骨に適度な負荷を与えることで骨密度を強化するほか、筋肉や骨の維持向上に役立つホルモンが出ることから骨密度の向上に役立つことが知られています。特に高強度の運動は骨への刺激が高いために骨密度の強化にも役立つことが知られています。一方で骨への刺激が少ない運動は骨密度にはそれほど効果がないようで、例えば体操やバレーボールのような衝撃を受けることが多いスポーツの選手よりも、水泳の方が骨密度が低いことが知られています(1)。※とはいえ、水泳をやると骨密度に悪影響を及ぼすわけでもないので心配はいりません(2)

しかしながら、強度の高い運動を、閉経後の女性のように骨密度の低い人たちが行ったら骨折の恐れがあるのではないか?という懸念がありました。しかしながら、これは杞憂のようであることが示されました。

 LIFTMOR試験(lift moreもっと挙げろ!みたいな意味で面白いですね)と呼ばれる試験では、平均年齢65歳で骨密度が低い閉経後女性をランダムに振り分け、週に2回

・最大筋力の85%以上の重量で、5回を5セット行う

・家で行う軽めの運動

を行ってもらい、運動が骨密度に与える影響を調べています。その結果、8か月後には家で運動を行った人たちは骨密度が開始時よりも減ってしまったのに対して、高強度の運動を行った人たちは骨密度が増えいることが示されました(3)。高強度の筋トレは加齢に打ち勝てることを示しているのです。

 もちろん運動能力も上がっていることが示されているので、骨折の原因となる転倒のリスクが減ることも容易に予想されます。面白いことに、高強度の運動も低強度の運動も脱落した人が少なく、数値上は高強度の運動の人の方がよいくらいでした。

 重大な副作用なく、高強度運動を行った49人のうち1人だけ少しだけ腰が痛いという症状がでたというでした。これは準備体操や、骨格にあった運動を選択すれば防げる可能性が高いと考えられます。

 さらにこの試験の解析の結果、高強度の運動をした人で椎体骨折のリスクとはならなかったことが示されています(4)。そればかりか、高強度の運動を行った人で胸部後弯(腰の曲がり具合)のより大きな改善が認められたのです。すなわち、最大重量の85%以上の重量で行う筋トレに対抗できるほどの力が骨密度が低くなっている高齢女性でも存在するというわけなのです。

 もちろん、高重量の運動を未経験の人や未熟な運動指導者のもと行うのはリスクが高いので避けた方がよいでしょう。しかし、適切な指導者のもと、徐々に強度を上げていけば危険というわけではないのです。

「年だから」と思ってしまうこともあるかもしれませんが、体は強くなる準備はできているのです(と言い聞かせて減量中)。

余談

5回できる重量を5セット行うトレーニング法は5×5セット法ともよばれ、ボディビルディング元世界王者の杉田 茂氏(なんと大学時代に直接指導していただけた。このおかげで学生ボディビルベスト4に入賞できたわけである)が好んで行っていた方法であり、特に筋力の向上に役立つことが知られています。アーノルド・シュワルツェネッガーと戦うためのトレーニングが高齢女性の骨の健康にも役立つことが科学的にも示されているということは、実に興味深いものです。

参考文献

(1)1995 Bone「A comparison of bone mineral densities among female athletes in impact loading and active loading sports.」

(2)2013 PLoS One「Is bone tissue really affected by swimming? A systematic review.」

(3)2018 J Bone Miner Res「High-Intensity Resistance and Impact Training Improves Bone Mineral Density and Physical Function in Postmenopausal Women With Osteopenia and Osteoporosis: The LIFTMOR Randomized Controlled Trial.」

(4)2019 Osteoporos Int.「High-intensity exercise did not cause vertebral fractures and improves thoracic kyphosis in postmenopausal women with low to very low bone mass: the LIFTMOR trial.」