筋トレこそが最強の薬である。

京大バーベル部卒の薬剤師が筋トレや食事法中心に、健康に役立つ情報を紹介します。

健康診断よりも筋肉の方が健康にとって大事かもしれない

要約

・筋力が低い人、筋肉が少ない人は死亡率が高い

・筋力が低い人はうつ、認知症のリスクが高い

最近のニュースを見ていると、

「健康診断を受けることを勧めることで健康問題の改善につなげる」

というものが多数あります。中には検診を受けるとお金が返ってくるという政策を行おうとする自治体もあるようです。

www.asahi.com

死や要介護につながる疾患のリスク因子である高血圧や糖尿病、脂質異常症などを発見するためにさまざま検査が行われます。しかし、現在の健康診断には致命的な弱点があります。それは検査項目に

筋力

が無いことです。

「なにをどこかのマッチョ社長みたいなことを・・・」

と思うかもしれません。しかし、これは科学的根拠があってのことなのです。

・筋力が低い人、筋肉量が少ないは死亡率が高い

 筋力が筋肉量が少ない人は死亡率が高いことが多くの国での研究から明らかとなっています。例えば筋力については、2017年にMedicine & Science in Sports & Exerciseにて掲載された「Associations of Muscle Mass and Strength with All-Cause Mortality among US Older Adults」という論文では筋力が低い高齢者は2倍以上総死亡率が高いことが示されています。

 また、2014年にNutrition, Metabolism & Cardiovascular Diseasesにて掲載された「Skeletal muscle mass and risk of death in an elderly population.」という論文では筋肉量が少ない高齢者は総死亡率が1.96倍高く、心血管病での死亡率が2.16倍高いという結果になりました。

 この法則は日本人を対象とした研究でも明らかになっており、2014年にJournal of Epidemiology and Community Healthにて発表されたMidlife and late-life handgrip strength and risk of cause-specific death in a general Japanese population: the Hisayama Study.という論文では中年期(40~64歳)と高齢期(65歳以上)の場合で握力の強さと総死亡率の間の関係を調べています。最も握力が低い群の死亡率を100とした場合に、握力と死亡率を表した結果が下のグラフになります。

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Midlife and late-life handgrip strength and risk of cause-specific death in a general Japanese population: the Hisayama Study.より筆者作成

グラフのとおり、握力が低い場合と比較して、握力が強い場合は総死亡率が大幅に低いことが示されているのです。しかも、この法則は中年期から始まっており、40歳になればすでに始まってしまっているのです。

このように握力が弱いことは死亡率が高いことと大きく関係しているのですが、その程度は健康診断で用いられる指標よりも相関性が高いということがわかっています。2015年に世界的な医学誌Lancetにて発表された「Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study」という論文では、血圧が高いことよりも握力が低いことの方が

・総死亡率

・心血管病による死亡率

の点で関連性が高いことまでが示されています。これらのデータから、40歳以上の健康診断に「握力」 を追加しても良いのでは?とさえ思えてしまいます。

・筋力が低い人はうつ、認知症のリスクが高い

 筋力が低いことは死につながる疾病のリスクが高いだけではなく、我々の生活に重大な使用をきたす疾病のリスクも高いことが示されています。例えば2015 年にAge Ageing. にて発表された「Association between hand-grip strength and depressive symptoms: Locomotive Syndrome and Health Outcomes in Aizu Cohort Study (LOHAS).」という論文では、握力が弱い人はそうでない人と比べてうつである可能性が高く、その後のうつが悪化する確率が高いとあります。この研究は日本で行われており、我々日本人において筋力の低下がうつとなんらかの関係があることを示唆しています。

 また、認知症による問題は社会問題となっていますが、握力が低い人は認知機能障害を起こしやすいことも東北大学の研究で示されいます。2018年にThe Tohoku Journal of Experimental Medicineにて報告された「Prospective Association of Handgrip Strength with Risk of New-Onset Cognitive Dysfunction in Korean Adults: A 6-Year National Cohort Study.」という論文では、握力が強い人と比較して弱い人は認知機能障害のリスクが高いという結論に至っています。どうやら筋力の低下は脳の機能にも大きなリスク因子になっているようです。

 以上のことから、健康診断の値に気をつけることも大切ですが、それ以上に筋力の衰えに対して気をつけるべきであることがわかります。そのためには筋トレが最も効果的です。筋トレを行えば健康診断の数値の改善にもつながることは科学的にもわかっており、ぜひとも行ってほしい物です。