筋トレこそが最強の薬である。

京大バーベル部卒の薬剤師が筋トレや食事法中心に、健康に役立つ情報を紹介します。

乳がん治療薬による関節痛にも筋トレを含めた運動は効果的である。

要約

筋トレを含めた運動は乳がん治療中の人を救う。

ある日、薬の相談をしていた時です。

「この薬を飲んでから、関節が痛くって。でも、先生が忙しそうだから何も相談できなかったの。だから飲んでなくて沢山余っている。」

という話を聞きました。

その薬の名はアリミデックス®(一般名アナストロゾール)。アロマターゼ阻害薬、すなわち乳がんに対する薬です。

実はこの薬によって関節痛が起きることは結構有名なことであり、添付文書でも1%以上の確率で関節痛が起こることが示されています。最大50%もの人が関節痛を経験するというデータもあります。この副作用のためもあってか、最初の1年で約20%の人がアロマターゼ阻害薬を飲まなくなってしまうというデータまで存在します。

 

とは言え、乳がんの再発防止にアロマターゼ阻害薬が有用であることは有力医学誌にも紹介されています。さらに、飲まないでいることが死亡率の増加につながるという報告もあり、飲まないでいるのは好ましい状況ではありません。アリミデックスによる関節痛を改善するためになにか良い解決法はないのでしょうか?

実は筋トレを含む運動が痛みの緩和に役に立つ可能性が高いことが有力医学誌Journal of Clinical Oncologyにて紹介されているのです(タイトルの伏線回収)。

乳がん再発を抑えるためにアロマターゼ阻害薬を使っている、非活動的な女性に対してランダム化試験と言う信頼性の高い研究を行っています。

行った運動は

・週150分の有酸素運動。最大心拍数の50%で開始。その後、最大心拍数60~80%に増やしていく(ジムでも家でもOK)。

・筋トレ。ベンチプレス、ラットプルダウン、シーテッドロウ、レッグプレス、レッグエクステンション、レッグカール。8~12回を各3セットを週2回。12回3セットをクリアしたら重量を増やしていく。

というもので、一般的なジムで実行可能な内容です。

その結果、12か月後には特に運動を行わなかった対照群と比較して

・最悪に痛む程度が改善した(worst painとあるが、たぶんこんな感じの意味だと思う。英語に詳しい方、指導あればありがたいです。)10を最悪とした場合、5.6だったのが4.0になるくらいとのこと。

・痛みのひどさが改善した。

・痛みによる日常生活に影響の程度が改善した

という結果になりました。運動を行えば、痛みの面で明らかな改善が認められるというわけなのです。ちなみに、3か月後の時点である程度改善しており、中期的にも効果があるということがわかります。

持久力の指標も対象の人たちは低下したのに対して、運動をした人たちは始めるまえよりも向上がみられました。さらに、体重も減り、筋力も増加したことからスタイルもものすごく向上したということになります。

なお、特に問題となる事象も発生せず、運動は乳がん治療薬を使用中の人にとっても安全であることが示されました。

ということで、患者さんに言うべき説明はこうです。

「筋トレとウォーキングなどの有酸素運動を行うと改善するという科学的なデータがあります。一応主治医に運動の許可は要りますが、がんに関して一流の医学誌でその効果が示されているので、たいていOKがでるでしょう。」

アロマターゼ阻害薬による痛みは運動で吹き飛ばし、長く逞しく生きようではありませんか!筋トレはやはり最強の薬なのです。

 

参考文献

J Clin Oncol. 2015 
Randomized exercise trial of aromatase inhibitor-induced arthralgia in breast cancer survivors.

アリミデックス®の添付文書