筋トレこそが最強の薬である。

京大バーベル部卒の薬剤師が筋トレや食事法中心に、健康に役立つ情報を紹介します。

亜鉛で血糖値が改善するらしい

要約

・高容量の亜鉛で血糖値などが改善する

少し前に会社の取引先の方でちょくちょく来られる方が腕を骨折した状態で来られました。

社長曰く

「糖尿病の治療中のようだが、どうやらその薬のせいで「低血糖で転倒して骨折したらしい。かなり悩んでいるから相談にのってあげてくれないかな?」

その後相談にのったところ状況は快方に向かいました(本当は詳細を書きたいが、大人の事情でカット)。ずいぶん感謝され、御礼に会社全体にケーキ(しかもどうやらかなり高級らしい)までいただいてしまってかなり恐縮しました。

 前置きがながくなりましたが、この経緯から糖尿病についての記事も書こうと思います。今回紹介するのは亜鉛を沢山とることで血糖値が改善するというシステマティックレビュー&メタ解析です(1)。この論文では亜鉛サプリメントが糖尿病に関連する因子に及ぼす影響を総括してくれています。この解析の結果、糖尿病の人、もしくは糖尿病予備軍の人が亜鉛サプリを摂ることで

空腹時血糖 −14.15 mg/dL

食後2時間後血糖 −36.85 mg/dL

HbA1c −0.35%(これは糖尿病の人のみのデータ)

という改善を示した他、インスリン感受性の改善や炎症マーカーの低下などが示されました。

糖尿病に知識がある人ならわかると思いますが、これはなかなか優秀な値です。簡単にいうと、数値上は1種類の糖尿病の薬を半減できるくらいの効果はあるということになります(気になる人は添付文書を見てみましょう。薬は倍飲んでも倍は効かないことが多いのです。)。

 

 この文献の解析では亜鉛サプリの量と効果の間に関係は特に見られなかったということです。平均摂取量が1日35mgということなので、この値を目安にするのが良いように思います。ただし、高容量の亜鉛は銅の吸収を抑えることで銅不足を起こすことがあるので、サプリメントとして摂る場合は銅も配合したものを選択するのが無難でしょう。また、糖尿病治療薬を使用中の人が亜鉛サプリを摂り始める場合は血糖値の変化や低血糖にも注意をした方がよいということにもなります(たぶんそのような注意が気をしたサプリメントはないでしょうが)。

 この文献は効果にばらつきがあるなどの難点はありますが、亜鉛という非常に安い物質で糖病病を改善できるという点で素晴らしい論文だと思います。経済的に恵まれない地域で糖尿病が大きな問題になっているという話もありますが、このような論文は解決の糸口になってくれると思います。

(というわけで、亜鉛の豊富なアーモンドを食べることにしよう) 

参考文献

(1)2019 Am J Clin Nutr 「Zinc supplementation improves glycemic control for diabetes prevention and management: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials」

 

 

 

筋肉痛対策にBCAAを摂るなら筋トレ前がよいかも

要約

・筋肉痛対策にBCAAを摂るなら、筋トレ前の方が筋トレ後よりも効果的であるようだ。

筋トレが広まった結果人気がでたサプリメントにBCAAがあります。BCAAはロイシン、イソロイシン、バリンのことを指し、筋肉でのたんぱく質合成に役立つことが示されています。

 ボディビルダーは筋肉の強化を目的に摂取しますが、筋トレによる筋肉痛の軽減に役立つことも多くの試験からわかっており(1)、レクリエーションで筋トレを行っている人にとってもなかなかよいサプリメントです。

 このようなBCAAですが、筋トレ直前に摂取することが一般的になっています。その理由は、筋トレ前に体内のBCAA濃度が高まることで、運動による筋肉へのダメージを減らせることが期待されるからです。理屈的には正しく、私もその説を信じて筋トレ直前にBCAAを摂っていましたが、果たしてこれは科学的にみて正しいことなのでしょうか?

 この疑問に答えてくれる論文(2)を見つけることが出来たので紹介しましょう。この論文では筋トレ直前にBCAAを摂るグループと、筋トレ直後にBCAAを摂るグループで、その後の筋肉痛の推移を比べています。その結果、筋トレ前にBCAAを摂取する方が筋トレ後に摂取するよりも筋肉痛が軽減されたという結果となりました。

 この論文の実験の参加者は14人と少なめで、若い男性のみが参加者であるという難点はあります。しかしながら、筋トレを行う日にBCAAを摂るならば、筋トレ直前を選択することは、次の日の筋肉痛を軽減し、快適に過ごすことに役立ってくれるでしょう(まあこの筋肉痛がクセになるという変なひとも結構いますがね)。

摂取量に関しては、こちらも参考にしていただければ幸いです。

pharmuscle.hatenablog.com

 

参考文献

(1)2019 Int J Vitam Nutr Res.「Effect of branched-Chain Amino Acid Supplementation on Muscle Soreness following Exercise: A Meta-Analysis.」

(2)2018 J Sports Med Phys Fitness「Effect of BCAA supplement timing on exercise-induced muscle soreness and damage: a pilot placebo-controlled double-blind study.」

紅茶と一緒にたんぱく質を摂ると、吸収率が減るかもしれない

要約

紅茶ポリフェノールは卵のタンパク質の吸収率を17%減らした。

 お茶に含まれるポリフェノールは糖や脂質の吸収を抑える作用があることが知られています(1)。これは太り過ぎで健康を壊す人が増えている現代社会にとってはよい作用に思えますが、本来はエネルギー吸収を抑えて捕食者にダメージを与えるいわば「毒」としての側面もあります。となると、他の成分の吸収も抑えるのでは?と考えるのは自然な流れです。

 今回、お茶のポリフェノールがタンパク質の吸収に与える影響を調べた文献(2)を見つけることができたので、紹介しましょう。この文献では、紅茶のポリフェノールがタンパク質の吸収に与える影響を調べています。この研究の結果、

・紅茶のポリフェノールは卵のタンパク質の吸収を17%抑えた

・この作用は、スピルリナ(藻の一種)のタンパク質の吸収への影響見られなかった。

ことが示されました。一般的にタンパク質はほとんどが吸収されると考えられているだけに、この結果はなかなか驚くべきことです。一方でスピルリナには影響がなかったということから、粉末状のタンパク質の吸収には影響がない可能性もあります(なぜもっと一般的なタンパク質であるホエイプロテインとかソイプロテインで実験をしなかったのか、研究者を問い詰めてやりたい)。

 というわけで、お茶類を沢山飲んでいる人はタンパク質の摂取量が不十分でないか、今一度確認したほうがよいかもしれません。逆に肉ばっかり食べているような人には、健康に貢献してくれる可能性もあるでしょう。太古から付き合ってきたお茶が我々に与える影響がまた一つ明らかになり、勉強になりました。

参考文献

(1)2014 European Journal of Clinical Nutrition 「The anti-obesity effects of green tea in human intervention and basic molecular studies」
 (2)2019 The Journal of Nutrition「Co-ingestion of Black Tea Reduces the Indispensable Amino Acid Digestibility of Hens’ Egg in Indian Adults」

お茶はダイエットと健康にやっぱり役立つらしい

要約

これまでの研究のデータを総括すると、緑茶エキスの摂取は

BMIの低下、血糖値の低下に役立つ。

HDLコレステロールの上昇に役立つ。

・血圧や脂質の値に関しては、全体としては統計的な差は見られない。

ことが示された。

緑茶はとても親しまれている飲料です。その理由はもちろんその味の良さによるところが大きいのですが、最近はその健康効果を期待して飲まれるケースも多いようです(私もその一人なんですけどね)。

 緑茶の機能はさまざまで、特にトクホや機能性食品、サプリメントではダイエット目的で配合されることが多いようです。それでは、科学的な視点に立つと、緑茶はダイエットに効果があるといえるのでしょうか。

 その答えに役立つ論文を見つけることができたので、紹介することにしましょう(1)。この論文では1985年から2017年までに行われた緑茶エキスが与える効果についての総括をしてくれています。

その結果、全体とすると

BMI(体重の指標)、血糖値の低下が見られた。

HDLコレステロールの増加が見られた

・血圧やコレステロールに関しての効果は限定的なものであり、全体としては有意な差が見られなかった。

ことが示されました。ダイエット商材に緑茶エキスが含まれることは多いですが、これは妥当なものと言えるでしょう。緑茶がダイエットに役立つメカニズムは多数考えられており、

・脂肪細胞の生成を抑える

・脂肪燃焼の促進

・糖や脂質の吸収抑制

などが考えられていますが(2)、今回の試験では血糖値の低下が示されています。糖吸収抑制効果は意外と高いのかもしれません。

 このように、なかなかよい結果がでている緑茶ですが、その効果はマイルドなものであり、「緑茶さえ摂っていれば体重も血糖値もまるごと解決!」というまでではないのでご注意を!

参考文献

(1)2019 Clinical Nutiriton 「Does Tea Extract Supplementation Benefit Metabolic Syndrome and Obesity? A Systematic Review and Meta-Analysis」

(2)2014 European Journal of Clinical Nutrition 「The anti-obesity effects of green tea in human intervention and basic molecular studies」

 

 

多めの量のホエイプロテインなら高齢者の筋肉に役立つかも

要約

・筋力が低下した高齢者を対象とした研究から、32.4gのホエイプロテインを摂ることで運動による筋力増加効果が促進された。

ホエイプロテインが筋トレの効果を増やすことは有名になっています。しかしながら、筋肉に効果が出てほしい高齢者に関してはあまり効果がない可能性があるという報告も

あります。

pharmuscle.hatenablog.com

 しかしながら、この報告に用いられたホエイプロテインは量が少ないという難点があります。高齢者に関しては、ホエイプロテインは少量だと効果が薄いという報告も存在しており、この効果の乏しさは摂取量が少ないことに依存する可能性もあります。沢山ホエイプロテイン摂取した文献がないかな・・・と思っていたら発見することができたので、紹介することにしましょう。

 この論文(1)では60歳以上でフレイル(簡単に言うと筋肉が少ない状態)の人を対象として

・筋トレのみ行う群。

・筋トレに加えて、ホエイプロテインを1日32.4g摂る群。なお、ホエイプロテインの摂取は2回に分け、1回は朝食前、もう1回は筋トレ後か昼食前にとる。

に分けて、筋肉に与える効果を検証しました。その結果、筋トレに加えてホエイプロテインを摂った群は、筋トレのみの群と比較して

・握力の伸びが大きかった

・椅子から立ち上がるのに必要な時間が短縮された

・歩くスピードが改善した

ことが示されました。1日に32.4gと結構な量ならば、ホエイプロテインによって筋トレの効果が増幅されるということになります。しかも、この文献では2回にわけて摂っているので、一度に大量に摂らなくてもよいという利点もあります。

 たんぱく質の摂取は腎臓や肝臓が悪い人など、一部の人には不向きなことがあるので、持病を持っている人は念のため病院での相談が必要ですが、ほとんどの人にとっては問題はないでしょう。高齢者も筋トレのお供に、多めのプロテインを摂るようにしましょう!(下は海外で人気のあるらしいホエイプロテイン。たしかに結構うまいが、味が濃いのが苦手な人には不向きかな。)

 

参考文献

(1)2019 Archives of Gerontology and Geriatrics「Effects of whey protein nutritional supplement on muscle function among community-dwelling frail older people: A multicenter study in China 」

卵やコレステロールの摂取量は脳卒中のリスクに影響しないようだ

要約

・卵やコレステロールの摂取量は脳卒中のリスクに影響しなかった。

・遺伝的に脳卒中のリスクが高いとされる人にも、卵の摂取量と脳卒中のリスクに関連は見られなかった。

 卵は栄養価に優れているうえに美味しく、しかも手ごろな値段であるところから必要不可欠な食品です。しかしながらコレステロールの多さから一時期は1日1個までに制限するように言われていました。ところが、全体としては食事に含まれるコレステロールの量と疾病の関係にあまり関係がないことが示されており(1)、以前のように制限されるようなことはなくなりました。

 しかしながら、個々の体質によってはコレステロール摂取量が疾病につながる恐れもあるため、より詳細な研究が求められています。今回は卵の摂取と脳卒中のリスクについて紹介しましょう。この論文では、男性を対象に卵やコレステロールの摂取量と脳卒中のリスクとの関係を調べています。その際、脳卒中のリスクと関連することが指摘されているapoEについての関連を調べています。その結果は実に興味深く、

コレステロールの摂取量と脳卒中のリスクの間に関連は見られなかった

・apoEのタイプの違いを考慮しても、コレステロールの摂取量は脳卒中リスクに影響しなかった

ことが示されています。どうやら脳卒中に関しては、遺伝の体質によらず卵やコレステロールの摂取量についてあまり神経質にならなくてもよいことが示されました(もちろん、筆者の知る月卵1000個消費するような場合は別でしょうが)。最近は遺伝子検査が流行っているようですが、apoEの調査の結果脳卒中が高いほうだと判定されても、特に神経質になる必要はないということですね。正しい知識を持ち、非科学的で不要な我慢はやめて、食生活を楽しみましょう。

参考文献

(1)2015 American Journal of Clinical Nutriton「Dietary cholesterol and cardiovascular disease: a systematic review and meta-analysis.」

(2)2019 American Journal of Clinical Nutriton「Egg consumption, cholesterol intake, and risk of incident stroke in men: the Kuopio Ischaemic Heart Disease Risk Factor Study 」

長期的な視点をもてば、低炭水化物ダイエットも低脂肪ダイエットも効果は特に変わりはない

要約

12か月にわたる低炭水化物と低脂肪食がダイエットに与える影響を比較した試験から以下のことがわかった。

・ダイエット効果に差はなかった。

・肥満に影響するとされる遺伝子の違いでダイエット効果に差はなかった

低炭水化物食ダイエットは人気のあるダイエット法です。私も学生時代、ボディビルの大会に出るために極限に近い低炭水化物食ダイエットを行い、かなりの減量に成功しました。この時は体形のあまりの変化に、これほどすごいダイエットはないと感じたものでした。

 しかしながら、低炭水化物食ダイエットは費用や手間がかかり、長期間続けるのは非常に難しいダイエット方法です。また、低炭水化物食をするがために他の人とのランチやディナーを避けて社交性を失うというのは不健全と言えます(特にボディビルダーに多いように感じる)。

 それが嫌だったので、今回は普通に炭水化物を摂っていましたが、過去最高に絞ることが出来ました。どうやら普通に炭水化物を摂っても、ある程度時間さえかければ普通に痩せることができるようです。さて、この体験は私に限ったものなのでしょうか?

 有力医学誌として高名なJAMAで発表された論文によると(1)、どうやら私の経験は科学的にも整合性が取れているようです。この研究では

・炭水化物30%、脂肪45%の低炭水化物食

・炭水化物食48%、脂肪29%の低脂肪食

の健康的の減量食がダイエット効果に与える影響を検討しました。ここで言う「健康的」とは野菜の摂取量はしっかりと増やし、精製された糖や炭水化物やトランス脂肪酸は避け、できる限り加工食品をさけて自炊を心がけてもらうというものでした。

 この食事を12か月間行った結果、

・体重、体脂肪、ウエスト周囲など体形に関わる数値には統計的に有意な差はなかった。

・低炭水化物食はHDLコレステロールの増加と中性脂肪の低下という良い影響があった一方で、LDLコレステロールの増加という気になる変化も見られた。低脂肪食は脂質の値には特に影響しなかった。

・肥満に関わると考えられる遺伝子の違いで各食事に対するダイエット効果は変わらなかった。

ということが示されました。血中脂質に関しては多少差が見られましたが、ダイエット効果に関しては差が見られなかったというのが長期での質の高い試験からの結論です。また、肥満に関わる遺伝子とダイエット効果に差が見られなかったということなので、遺伝子検査では肥満遺伝子は特に調べなくてもよいということにもなります。

 ダイエット方法は多数あり、効果の優劣はまだわからず、「これこそが究極」というものはまだ存在しないと言っても過言ではありません。また、炭水化物の摂取が少ないことは手間や費用がかかるだけではなく、健康上も懸念があります。

pharmuscle.hatenablog.com

ならばダイエット中であっても臨機応変に対処し、友人との食事を楽しんだ方がスマートと言えるでしょう。

(とまあ偉そうなこと言ってますが、減量期に飯を食っていた時は「臨床試験」と銘打ってカロリーカットサプリをガンガン摂取して呆れられていたのですがね)

参考文献

(1)2018 JAMA「Effect of Low-Fat vs Low-Carbohydrate Diet on 12-Month Weight Loss in Overweight Adults and the Association With Genotype Pattern or Insulin Secretion」